メダカやグッピーの稚魚に多いベリースライダー
自称繁殖マニア(?)の私は、生まれての稚魚ちゃんたちを見るのが大好きです!
そんな稚魚を眺めていると、いつまでたっても泳ぎ出さず、ずーっと水槽の底にいる子がいるのを発見することがあります。
孵化後の数日はそのような状態でも、生後1週間もすれば正常に泳ぎ出す個体がほとんどですが、中にはいつになってもお腹を水底につけたまま這うようにしか泳げない個体がいます。これをベリースライダーといいます。
ベリースライダーは、卵生メダカや日本のめだか・グッピー・ベタなどの小型熱帯魚の稚魚によく見られる異常ですが、成魚になってから急にベリースライダー化するケースもあります。
やはり水槽の中では活き活き泳ぐ魚たちの姿を見たいですよね。ベリースライダーの魚は水底でじっとしていることが多く、泳いても立ち泳ぎのようにしか泳げません。
また、遊泳能力が低いのでうまく餌を摂ることができずに成長が遅くなる傾向があります。成長しても身体が細めで細長く、正直、鑑賞魚として見た目の印象はよろしくないです。
今回はこの悩ましいベリースライダーについて掘り下げるとともに、卵生メダカ飼育における私なりの対策をご紹介したいと思います。
ベリースライダーとは?
ますはベリースライダーの意味・定義から。
ベリースライダーとは、魚の腹部にある浮き袋の異常による障害です。
魚の浮き袋は、中に酸素などの気体を溜め込むことで水中での浮力調整を行う重要な役割をもっています。
水中を自由自在に泳ぐ魚たちはもちろん泳ぐ能力に長けていますが、人間同様、水に対して身体の比重が重いので、そのままだと水中に沈んでいきます。
そこで魚たちは、水中での活動を楽にするための基本機能として、体内に酸素などの気体を溜め込む浮き袋をもつことで水中での浮力調整を可能にしています。だから水中で身体のバランスをとったり泳いだりする能力を発揮できるのです。スゴイですよね!
しかし、ベリースライダーの魚はこの浮き袋が何らかの異常で正常に機能しないため、うまく身体を浮かせて泳ぐことができなくなり、水底でぴょこぴょこ跳ねるような泳ぎ方になったり、真っ直ぐ正常な体勢を保つことさえ困難になってしまうのです。
可哀想(涙)
ベリースライダーの原因
ベリースライダーになる原因は明確には特定しにくいです。
しかしながら、発生時期により大きく2つの原因が考えられます。
(1)先天的スライダー
孵化したての稚魚の時から浮き袋に異常が発生しスライダーになるパターンです。
さらに先天的スライダーの中でもさらに3つの原因が考えられます。
①遺伝的な問題による場合
人間同様に身体的な特徴は遺伝しますが、色・体型などだけでなく遺伝的な機能障害としてスライダーが発生する場合があります。
②孵化時に未成熟・未発達であった場合
孵化した稚魚によっては、まだ完全に身体のつくりが完成しておらず、身体全体が未成熟であったり、一部機能が未発達の状態で生まれてくる事があります。その場合は浮き袋自体が正常な働きをせずにスライダーになる場合があります。
②孵化直後の浮き袋が機能し始める際に障害が起きる場合
孵化したての稚魚は水中で初めて身体機能を開花させます。浮き袋も最初は気体で満たされていないため、孵化直後に酸素で満たすことで体内に拡がり機能を開始しますが、その際に充分な酸素を取り込むことができないと浮き袋が拡がらずにスライダーになる場合があります。
(2)後天的スライダー
無事成魚になり普通に泳いでいた魚が、ある時から急にスライダーになるパターンです。
発見の兆候としては、体勢が真っ直ぐではなく左右に傾く・逆さまになる・立ち泳ぎになる、などの症状が出て発見する事が多いです。
原因は特定しにくいですが、下記のような環境が引き金になることが多いです。
●食べすぎ
●水質悪化
●細菌感染
ベリースライダーの予防・治療法
上記のように原因が特定しづらいベリースライダーには明確な治療法はありません。
特に先天的スライダーの場合は回復を見込むのは正直難しいです。
ただ、私の経験上、後天的スライダーの場合には原因と考えうる環境を改善することで元通りに泳げるようになるケースもあります。考えうる原因別の予防・治療法を挙げておきます。
①食べ過ぎが原因の場合
腹部の膨張などが浮き袋の機能に影響を与えている可能性があるので、一度胃の中を空っぽにして内臓のバランスを正常化することをおすすめします。
取り急ぎの対応として、ベリースライダーの魚を隔離して1週間絶食をして様子を見ます。小型熱帯魚は1週間程度餌を与えなくても、それが原因で餓死することはありません。
また、治療時は低水位にした方がよいです。水深が深いと、魚が水槽内を泳ぐ際にアップダウンの動きが増え、浮き袋への負荷が高まります。バランス回復に向けてできるだけ浮き袋を休ませる必要があるため、低い水深(2〜3センチ程度)にします。
餌を与えないので糞による水質悪化リスクは低く、少ない水量でも特に生体への影響はありません。目に見える汚れはスポイトで取り除き、蒸発した分だけ足し水する程度の管理で大丈夫です。
この状態で1週間後様子を見ると、普通に泳げるようになっている場合があります。その後は水合わせしながら元の水槽に戻せますが、一度スライダー化した個体はまたなりやすい傾向があるようなので、以後は餌のやりすぎに注意しながら腹八分目で様子をみていきます。
もし改善しないようであれば、他の原因も考えてみましょう。
②水質悪化が原因の場合
水質悪化は病気や体調不良などさまざまな悪影響につながりますが、その一つとしてスライダーのような症状が発生するケースがあります。
あー、ちょっと掃除サボりすぎて水槽が汚かったなぁ、という時は水質悪化が原因となっている場合があります。
この場合、まずやることは飼育水の交換です。
スライダーの魚は、食べ過ぎの場合同様に低水位の水槽に隔離するのが望ましいです。
その際は、元の水槽の水に対しカルキ抜きした新水を2;8くらいの割合で綺麗な新水メインにします。私の場合は全くの新水に魚だけ移動して入れてしまいますが…(汗)
また、元いた水槽の水が汚れたままだと他の魚にもよくありませんので、元水槽は1/2以上の水換えを行い、以後しばらくこまめに水替えして水質改善していきます。
③細菌感染が原因の場合
細菌感染による症状としてスライダーのような泳ぎ方になる場合があります。
腹を水底につけた典型的なスライダーの症状もありますが、立ち泳ぎや逆さ泳ぎ、クルクルまわりながら泳ぐ等、中層を泳いでいるものの泳ぎ方がおかしいというケースが多いです。
また、体表やエラ部分に目に見える異常・ヒレ裂けなど、他の症状も一緒に見られる場合、疑ってみるべきです。
治療方法は、一般の細菌感染症の際に行う塩浴・薬浴で、この場合もスライダーの魚だけ低水位の水槽に隔離して行います。
塩浴・薬浴についてはこちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
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以上、大きく3つに分けて後天的なスライダーの原因別治療法をご紹介しましたが、いずれも早期発見が大切です。病気と同じで手遅れになるとやはり治りません。
異常な個体を見つけたらすぐ対処してあげたいですね。
卵生メダカのベリースライダー対策
卵生メダカ、特に年魚を飼育しているとスライダーに出会うことは多いです。
ノソブランキウスやオーストロレビアスなどの年魚は、卵を休眠させて頃合いを見て水につけて孵化させますが、休眠期間や孵化時の環境・タイミングによってスライダーが出ることがあります。
稚魚の時からの先天的なスライダーになるので治療は難しいため、できる限りスライダーを発生させないような事前の予防策・工夫が大切です。
この卵生メダカ 年魚のスライダー予防策として私が実践していることをご紹介しておきます。
①卵の休眠期間の対策
卵生メダカの年魚は卵を乾燥保管して休眠させてから水につける面白い孵化方法で知られています。詳しくはこちらの記事でご紹介しています。
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孵化時に先天的スライダーになる原因の一つに、孵化タイミングが早すぎる、という問題があります。発育が未熟な段階で孵化してしまうため、浮き袋が正常に発達していない稚魚が生まれてしまうのです。
対策としては、しっかりと孵化準備が整ったことを見極めてから水につけることです。
休眠期間は、ラコビーであれば3-4ヶ月とか、ギュンテリーであれば2-3ヶ月とか、卵生メダカの種類によって異なります。またそれも確実な期間ではなく、人によってラコビーでも4ー5ヶ月という方もいますし、あくまで目安として言われている期間です。
さらに、保管温度や湿度などさまざまな環境により、かなりバラつきがあるのが現実です。例えばラコビーでは、保管温度が高い夏場には3ヶ月程度で孵化しますが、冬場では7ヶ月くらいかかったことがあります。かなり違いますよね。
そのため孵化タイミングは卵をよく観察して見極める必要があります。ちなみに卵の観察についてはこちらの記事もご参考までに…。
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透明だった卵が茶色味がかってきて、卵の中に眼が見えていることを確認しましょう。ついつい早く稚魚に出会いたいから、計算上の孵化タイミングだから、と言って水につけてしまうと、まだ卵の中で準備が整っていないため孵化自体をしないか、孵化した場合でもスライダーだらけになる事があります。
卵は必ず発眼を確認してから水につけましょう。なんとなく眼が見えるがハッキリ見えなくて孵化準備完了か迷った時は、もう1-2週間待ってから水につけましょう。卵は水につけるタイミングが早いより遅い方が孵化率も高くなりおすすめです。
②卵を孵化させる時の対策
孵化準備が整ったらいよいよ水につけるとお待ちかねの稚魚が孵化してきます。
生まれたばかりの稚魚は本当に小さく、頭にヒョロヒョロの身体がついた可愛い姿で泳ぎ始めます。
この時、身体の内部にある浮き袋はまだ膨らんでいません。
孵化直後の稚魚は水面に出て酸素を体内に吸い込みます。そうすると初めて浮き袋が気体で満たされ、正常に機能するようになります。
その後は水中の酸素をエラや皮膚から吸収して浮き袋内の気体量を調整しますが、この孵化直後の酸素補給がしっかりできないと浮き袋はずっと拡がらないままで、そのままスライダー化してしまいます。
そこで対策は2つ
1.孵化時の水位を低くしておく
孵化直後に稚魚が水面にたどり着きやすいよう、2-3センチ程度の低水位にしておきます。水位は無事稚魚が泳ぎ出したら徐々に上げていけばよいです。
2.水面に浮いたピートモスはできるだけ取り除いておく
卵を孵化させる時は、保管時のピートモスと一緒に水につけてよくかき混ぜます。
その時に、乾燥しているピートが水底に沈まず水面に浮かんでしまうことがあります。ピートの量が多い場合は、浮かんだピートで水面がびっしり覆われてしまうことすらあります。
そのような場合、孵化して酸素を取り込もうと水面に上がってきた稚魚は、ピートが邪魔をして水面に顔を出せず酸素を浮き袋に送り込むことができなくなってしまいます。
そうならないように、水面に浮いてしまったピートモスは取り除いて必ず水面がなるべく露出するようにしておきます。
孵化直後は稚魚にとって大事なタイミングです。ただ稚魚はまだ泳ぎがあまり得意ではないため、細かい事ですがこれらを気にかけてあげることでスライダーの発生を最低限に抑えることができると思います。
ベリースライダーが治らない魚はどうする?
最後に。
残念ながらベリースライダーは、予防も治療も叶わず治らないケースも多いです。
そんな魚はどうしますか?
人によっては、あきらめて淘汰してしまう方もいるかと思います。
また人によっては、そのまま他の魚と一緒に寿命まで飼育してあげる方もいると思います。
それぞれのアクアリウム環境の違いもあるので、どちらの選択肢をとってもよいと思います。ちなみに私の場合は後者です。
どうしてもかわいそうで、一緒に生まれた同期の魚たちと一緒に飼育してあげたいと思ってしまうんですよね。特に卵生メダカの場合、手塩にかけて休眠させた卵を孵化させたという想いが強いからかもしれません。
スライダーの魚も一緒に飼育していると成長して寿命まで生きることが多いです。ただ、水面の餌を取りに行けないため他の魚に餌を奪われてしまうので成長が遅くなりがちです。だから餌は目なるべく目の前に落としてあげるようにしています。
できるだけスライダーにならないように、治るように、心がけていきたいですよね。